【コラム】「野球はアタマや」

前々から読み返したいと思っていた本があって、今年の正月に帰省したとき、実家から持ち帰ってきました。

「野球はアタマや」(徳間書店、1984年刊、ISBN-10: 4195029066)

1979年の「江夏の21球」を生中継で見た人はおそらく私の年代以上でしょうが、小学生だった自分にとっても、鮮やかに記憶に残っているシーンです。この書籍はその数年後、現役最後の球団となる西武ライオンズに移籍した年に刊行されたものです。

江夏豊投手については私が語るまでもないですが、打者心理の読み、瞬時の判断、そして思ったコースに投げられるコントロール、本の冒頭で自身が語っていますが、まさに「頭手」です。

この本では、これも球史に残る1983年のプロ野球日本シリーズ、西武vs巨人の7試合のデータをコンピュータで集計したデータを見ながら江夏投手が解説するというものです。いま見れば、この本の数字の集計表はあまりにもシンプルですが、当時の自分には新鮮に見えました。

昨年、それまで手がけた分析ソフトから離れて出直すことにした時、スポーツの情報分析について、自分の頭でもう一度整理しておく必要を感じました。江夏投手が36年前、当時では珍しいコンピュータで集計したデータを見ながらどんな言葉を語っていたのか、それがデータに対して肯定的であっても否定的であっても、必ず、データに対する姿勢を考えるための「出発点」になるだろうと思ったのです。

数十年ぶりに読んでみて、思った通り、データとの距離の取りかたについての考えは、少しも時間の経過を感じさせないものでした。当時とは比較にならないほどのデータが得られるようになった現在ですが、データの多寡は関係なく、一流のプレーヤーは同じようにデータと向き合っているのかなと想像します。

COVID-19での厳しい状態が続いていますが、今やれること、やっておくべきことを精一杯やっておきたいと思っています。皆さんもどうかご健康には留意しつつ、今を乗り切りましょう。

(橘 肇/橘図書教材)