【コラム】手書き配球表の役割は?

オンライン授業で話すネタを探して、昔の資料を入れたダンボール箱を漁っていた時のことです。

お、これは!

大学時代に私が自分で記入した「配球表」が出てきました。

当時、ビデオの撮影と試合ごとの配球表はマネージャーがつけてくれていたと記憶していますが、特にそこからの分析はチームではやってませんでした。
なので、自分で相手チームごとにまとめてみたんだと思います。
これこそ「手作業による記述分析」1)ですね。

一緒にこんなものも出てきました。広告の裏紙というところがいいですね。
この画像では隠していますが、後々プロ野球で大活躍した選手の名前が2名あります。

集計した数字から何かを言うには少なすぎますし、「量的分析」よりもむしろ「質的分析」に近いのかもしれません。つまりこの見立てが正しいかどうかは、判断していた私の「目」次第ということになりますが、さて、どうだったのでしょう。

1つはっきりしているのは、この見立ての通りに投げるコントロールがなく、大ホームランを打たれたということだけです。

時は流れて約30年後。テクノロジーの進化は、私の作る配球表もデジタルに変えました。

では、「手書きの配球表」は役目を終えたかというと、そうでもないのが面白いところです。

聞くところによると、特にアマチュア野球では試合中にこうした手書きの配球表を記入して、試合後すぐに参照しているチームは多いそうです。

『スポーツパフォーマンス分析入門』によれば、カーディフ・メトロポリタン大学では、レベル5(学部2年生)においてソフトウェアを使った実習を行う前に手作業による記述分析を扱うことにしており、「手作業による記述分析システムを開発することは、スポーツパフォーマンス分析を学ぶ学生にとって有益なトレーニングになる。」と記されています1)(その理由についても、書籍の中に書かれております)。

しかし単に「学生のトレーニングとして有益」という価値だけではない気もしています。もちろん「紙とペン」で済む経済的な理由もそれでしょうが、「柔軟性」「一覧性」「質的情報の追加」という観点からのメリットもあるように感じます。

もし配球表の付け方やダウンロードリンクを探してこのコラムに辿り着いたという方は、配球表の付け方と合わせて、配球表のデータが「質的データの量的分析」、つまり、データの信頼度が付ける人の判断次第になってしまうということも押さえておいた方がいいと思います。その点については、こちらのコラム書籍も参考になるかと思います。

どれだけ高性能のパフォーマンス分析ソフトウェアでも単独で全てをカバーできるわけではなく、意外と「痒いところに手が届かない」ものだと、少なからず感じることがあります(もちろん、今私が販売しているソフトでも)。そのあたりも今後、考えてみたいところです。

1) オドノヒュー:中川昭監訳,橘肇・長谷川悦示訳(2020)スポーツパフォーマンス分析入門――基礎となる理論と技法を学ぶ,大修館書店,p.88.

(橘肇/橘図書教材)