【コラム】見つめる鍋は煮えない(西洋の諺)

松山に帰る道すがら読んでいたある本の中で、見つけた言葉です。

早く煮えないか、早く煮えないか、とたえずナベのフタをとっていては、いつまでたっても煮えない、あまり注意し過ぎては、かえって、結果がよろしくない。しばらくは放っておく時間が必要だということを教えたものである。

考えるときも同じことが言えそうだ。(以下略)

『思考の整理学』(外山滋比古/ちくま文庫)38ページ

締切まで余裕がある時ほど…

思い当たることがありました。連載の執筆で、取材が早く終わった時ほど、その後原稿をまとめるのに四苦八苦、いや、いつも四苦八苦はしているのですが、「いつもより余計に」している気がするのです。

月刊誌ですから締切日は毎月やってきます。取材が締切のずっと前に終わることもあれば、調整がつかず、締切の直前にやっと話が聞けたということもあります。

インタビューの音声はVosaicを使うと、すぐに文字に起こせます※。それをもとに原稿を執筆するのですが、日数に余裕がある時ほど、その作業が進みません。毎日インタビュー起こしの文面を眺めては、「どこを使おう、どこを削ろう」と悩むのですが、どれも大事なコメントに見えてきて、一向に決断がつかないのです。

これが「見つめる鍋」かなと感じたのです。

※ Vosaicの自動文字起こし機能はとても便利です。詳細は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

見つめる鍋は…

松山に帰ってきて、実家の本棚で1冊の本を開いてみると、そこにも、書いた文章を寝かせておくことの効果が書かれていました。

「寝かせる期間は、長い文章であれば、できれば1週間ほどです。」

『伝える力』(池上彰/PHPビジネス新書)127ページ

次回の取材も早めに終えることができました。ちょっと鍋のフタを閉じて、この取材で読者の方に何を伝えたいのか、インタビューの中でどの話が一番面白かったのか、ちょっと離れたところから考えてみようと思います。


さて、発売中の月刊トレーニング・ジャーナル11月号「実践・パフォーマンス分析」では、私がむかし籍を置いた京都大学硬式野球部を取材しました。掲載のタイミングの関係もあって、取材から執筆まで寝かせることができたかなと思っています。

秋のリーグ戦は明日の最終戦を残すばかりですが、特に4年生には、いい形で学生野球を終わってもらえたらと思います。

10/25追記
京都大学は秋のリーグ戦の最終戦で、近畿大学に対し延長11回裏の逆転満塁サヨナラ本塁打で劇的な逆転勝利を飾り、リーグ創設以来の近畿大学からの初の勝ち点を挙げました。また10月20日のプロ野球ドラフト会議では、水口投手がソフトバンクから育成7位での指名を受けるなど、大いに躍進した1年となりました。

(橘 肇/橘図書教材)