2024.8.1 京都先端科学大学 高校生対象「スポーツパフォーマンス分析を学ぶ」講習会レポート

8月1日(水)、京都先端科学大学京都亀岡キャンパスにおいて、高校生を対象とした公開の講習会「スポーツパフォーマンス分析を学ぶ」(主催:健康医療学部健康スポーツ学科)が開催されました。この講習会の目的は、健康スポーツ学科のハイパフォーマンスコース(2023年度新設)で実践している「スポーツパフォーマンス分析」を、講義と実習を通して高校生に体験し学んでもらうことです(大学HPより)。

初めての高校生対象・公開講習会

長年スポーツパフォーマンス分析の仕事をしてきましたが、高校生対象で、しかもオープンに参加者を募集して行う講習会というのは経験がありませんし、寡聞にして聞いたことがありません。果たして参加者が集まるのかと少し心配していましたが、当日は定員いっぱいの20名の高校生が参加してくださいました。告知と集客にご協力くださった大学関係者の方々に、この場を借りて、心からお礼を申し上げます。

このブログでは、私の担当させていただいた「コンピューター・ソフトウエアを使った試合分析」の内容について、ご紹介することにします。講習会全体の内容については、大学のHPにご担当の先生によるレポートが掲載されています。ぜひ、そちらもご覧ください。

「できる」「わかる」スポーツパフォーマンス分析の楽しさを

今回の受講者はスポーツパフォーマンス分析や試合分析に初めて触れる高校生たちです。また大部分が現役のプレーヤーとして部活動に所属している生徒ですので、少しでも自分やチームのプレーが改善、向上するきっかけにしてもらいたいと考えました。

また時間も90分間と限られています。そこで、この時間のゴールはスポーツパフォーマンス分析ソフト(以下、分析ソフト)の操作を習得することではなく、自分たちで「パフォーマンス指標」を考えて試合分析を行ってみることに定めました。自分自身の手で「できる」「わかる」楽しさを体験してもらうことがねらいです。

私が作った進行表を公開します。

橘の講義の進行表

あらかじめフォームを準備

1つ目の演習では、バスケットボールの映像を使って、両チームのシュートの成功率と攻撃時間の割合(支配率)を計算する課題に取り組みました。データを入力する「フォーム」はあらかじめ私の方で作っておきます。

バスケットボールの分析フォーム

まず5分程度の短いビデオを使い、最初はシュートに関するボタンのみを使って入力(マークアップ)を行います。次にビデオを最初に戻し、オフェンスに関するボタンのみを使って入力します。シュートに関するボタンにはリードタイムとラグタイムが設定してあり、オフェンスに関するボタンは「トグル」(ON/OFF)に設定してあります。この2回のマークアップ操作で、分析ソフトがイベントを「コード化」する2種類の方法を理解してもらいます。

「結果を見せる」ことを意識

2種類のボタンの違い、そしてタグ(2Pや成功など、ボタンに付随する詳細項目)の入力の方法を理解してもらったところで、1試合の分析に全員で取り組みました。1試合(約80分)を20人で約4分ずつ分担します。あらかじめ私の方でビデオを見ておき、それぞれの生徒が入力を始めるタイミングがプレーの切れ目になるよう、各自の入力の開始時間を指定します。

これまで時間の限られた講習では、どうしても「時間が来たから終わります」という終わり方になりがちだったのですが、それでは区切りがつかず、自分たちのやっていることの結果も見えません。そこで、最近はこうして1試合を少しずつ分担させて、結果を見せることを重視しています。クラウド型、人数無制限の分析ソフトだからこそ取り得る講習法です。

特に操作に迷う様子もなく、およそ10分ほどで全員が入力を終えました。管理者の私が全員のデータが入ったCSVファイルを一括でダウンロードし、あらかじめ作っておいたExcelのフォームにペーストして、グラフと表で結果を表示します。

バスケットボールの分析結果の表とグラフ
(本データは正確とは限りません)

ここまでの操作で、試合分析の基本的な流れを理解してもらいます。またこの結果から、みんなで協力してデータ入力を行うことで、分析にかかる時間を短縮できることを理解してもらうと同時に、データの入力に関する定義や判断基準を統一していないと、この結果は全く信頼できるものにならないことも強調しておきます。

パフォーマンス指標の考察

2つ目の演習は、パフォーマンス指標を考えながらの試合分析です。この日の受講者はほとんどがサッカー部に所属する生徒だったことから、サッカーの試合を素材に選びました(こうした講習会に備え、常にいくつかの競技の映像を用意しています)。

まず生徒たちに「どんなデータを取ればよいか」という問いかけをしました。最初に自分だけで考え、次に隣の人とペアになって互いに自分の考えを伝え合います。この方が、いきなりのグループワークよりも自分たちの考えが整理できるのではと思い、最近私が使っている方法です。ペアになっての話し合いでは、お互いに自分の考えを積極的に話し合う姿が見られ、嬉しくなりました。

その後、ペアで話し合った結果を発表してもらい、その中からいくつかの指標を選定しました。今回は受講者の側でフォームを作成してもらう時間がないので、私が代表して作り、全員が使えるように共有しました。2コマ程度の時間がいただける場合は、受講生各自にそれぞれ考えたフォームを作ってもらいます。

みんなでアイディアを出したサッカーの分析フォーム

競技による「注意すべきこと」の違い

1つ目の演習と同様、20人それぞれが入力を始める時間をこちらで指定します。ここで注意すべき点は、サッカーの場合、プレーの切れ目を基準にしようとすると、それぞれの担当時間の長さにかなり違いが出てきてしまうということです。やむをえず機械的に一定の時間で分担箇所を決めることになりますが、当然、あるチームの1回のボールポゼッションが2人の担当する時間に分かれてしまい、「2回」と記録されてしまう可能性が大いにあります。

この点は入力前にしっかりと伝え、特に攻撃の「回数」のデータは正確とは言えないことを強調しておきます。時間があれば、この点を使って、同じゴール型でもサッカーとバスケットボールには大きな違いがあることも説明します。

生徒たちが分析を行っている間、私はExcelのフォームをサッカーの結果が出力できるように手直しします。このような結果になりました。

サッカーの分析結果の表とグラフ
(本データは正確とは限りません)

先の説明の通り、ボールポゼッションの数が正確ではない可能性があり、また多人数で入力を行なっているので、当然、正確性にも問題があります(「定義の誤り」「認識の誤り」「入力の誤り」)。時間があるときは、この点について「どうすれば誤りを減らすことができるか」を考えさせるようにすれば、スポーツパフォーマンス分析に関する良い学習の機会となることでしょう。

1)「スポーツパフォーマンス分析入門」pp.159-160

高校生から教えられたこと

PCの起動とログインをコマの開始前に行っておくことができたこと、また高校生たちのPC操作が予想よりもずっとスムースであったことから、予定時間に十分余裕をもって演習を終わることができました。デジタルネイティブ世代の高校生の能力に驚くとともに、そうした力を伸ばしていく機会の1つとして、「スポーツを題材に情報を集め、考える」、スポーツパフォーマンス分析教育の意義も再確認できた1日でした。生徒たちにとっても、この日の体験がプレーやゲームに対する新しい見方、考え方のきっかけになれば幸いです。

本講習会の開催にご尽力くださり、また私にも貴重な機会をくださった京都先端科学大学の教職員の皆様、そしてご参加くださった高校生の皆様に深く感謝を申し上げます。

京都先端科学大学の野球場の写真
(グラウンドでは「弾道測定器を使った投球分析」の実習が行われました)

(橘 肇/橘図書教材)