【コラム】スポーツ「で」データ解析を学ぶ意味は

はじめに ー「自分が世界平和に僅かでも貢献できる方法」と考えてスポーツの仕事を選んだ私にとって、いま起きていることは容認できることではありません。これ以上の犠牲者が増えないことを願いつつ、スポーツが問題なく行われる世界のために自分ができることには、小さなことでも取り組んでいきたいと思っています。

毎日のニュースを見ている中で、「情報」と「判断」の重要性は私が言うまでもありません。自分がこうしてたまたま「情報分析」の分野、その教育に携わっていることの重みを改めて感じます。


さて、大学の非常勤講師を務めた今年度、後期に担当した科目の1つが「スポーツデータ解析」でした。この授業では、スポーツの様々なデータを題材に、統計学の基礎を学ぶことを目標に定めました。

授業内容は、まずデータの種類(名義データ、順序データ、比率データ)や平均値といった基本的な知識からスタートし、Excelを使ってのグラフ作成や相関分析、統計検定へと進めていきました。今だから打ち明けますが、実は自分自身がもう30年ほど統計に触れたことがなく、毎回直前での予習だったことを告白しておきます。

ちょうどオリンピックが終わった直後の授業開始でもあり、バスケットボール日本代表のスタッツを公式サイトで探して、得点効率といった指標を計算して特徴を探してみるという課題や、グラフの作成に関するレポートでは、インターネットで自由に自分の好きなスポーツのデータを探し、それぞれのデータに合った形のグラフで表現するといった課題も出しました。

(グラフの用途を理解することも大事ですね)

14回の授業が終わりに近づき、最終回の授業の題材を探していたところ、新聞のスポーツ面のある記事が目に留まりました。

「補助金、メダル左右せず 東京五輪、29競技団体」

記事のポイントを引用すると、

「東京オリンピックでメダルを獲得した16の競技団体が国などから受け取った補助金の年平均額が2億7710万円で、獲得しなかった13団体の約2億9687万円を2千万円ほど下回っており、補助金の規模がメダル獲得の成否を左右する要因とは言い切れない結果だった」ということです。

特に記事の是非について含むものはありませんが、とりあえず平均だけざっくり比べて「言い切れない」という書き方も科学的と言えるのかなあ…という印象がしました。ちょうど記事には各団体に配分された補助金の一覧表もついているので、この記事を最終の課題の材料にすることを思いつきました。

【問題】この新聞記事の趣旨は、「補助金の金額と獲得したメダルの数に関係があるとは言い切れない」というものです。この説が適切かどうか、補助金の金額が平均よりも多いチームと少ないチームの間でメダルの数について統計検定を行ってください。

スポーツデータを使って統計学を学ぶという点では、良い材料を新聞が提供してくれたと思います。読む側も記事を読んでなんとなく「そうなのか」と思うのではなく、「統計的に見てみたらどうだろう?」という考えを持ってくれたらと思います。

半期教えてみて、統計学は研究の場だけで使うのではなく、生活やニュースの中でデータや数値を見かけた時、その意味を適切に理解して行動できるようにするための知識だと感じました。新型コロナウイルス感染症の影響で、毎日のようにさまざまな数値が流れ出てくる今だからこそ余計にそう感じますし、スポーツ・体育科学系の学生はそれを「スポーツのデータ」という、身近なもので学べるメリットを活かしてほしいと思います。

「あなたスポーツやってたの?だから数字や統計に強いんだね。」

と、言ってもらえる未来が来ると嬉しいですね。

(橘 肇/橘図書教材)