【コラム】ビデオは薬にも、毒にも。

以前担当していたスポーツビデオ分析ソフトウェアのメーカーの本社は、オーストラリア(その後アメリカの会社が買収)にありました。

そのメーカーは2年に1度、「グローバルカンファレンス」と呼ぶ、全世界の支店・代理店が集まる会議を開催していました。そこでは新製品の情報あり、有名スポーツチームのアナリストの講演あり、大きな競技団体への営業の成功事例ありと、「スポーツパフォーマンス分析」を取り巻く様々なセッションが設けられていました。

「分析」という側面でスポーツに関わり始めた当時の私にとって、その講演のひとつひとつが新しい世界を開いてくれました。とりわけ「同じ志を持った仲間が世界中にこれだけいる」という事実は、「これがスポーツ業界の未来の仕事だ」という自信を私につけさせてくれたように思います。2005年に私が日本で「ユーザーカンファレンス」を立ち上げるモチベーションになったのも、このカンファレンスでした。

しかし何より、まだ全く売り上げも立たない時期に積極的に海外出張をさせてくれた、当時の社長・副社長への感謝は忘れてはいけないと思っています。

マンリービーチ
(シドニーのマンリー・ビーチ – カンファレンスの会場から近いこともあり、ほぼ毎回訪れていました。)

前置きが少し長くなりました。そんなグローバルカンファレンスで耳にした記憶に残っているトピックの1つが、2006年にニュージーランドのスタッフから聞いた次の話です。細部は忘れてしまいましたが、およそこういう内容でした。

「今年(2006年3月)のコモンウェルスゲームズ(英連邦の国や地域による4年に1度のスポーツ大会)では、ビデオをそれぞれの選手に見せるかどうかの判断に、帯同しているスポーツ心理学者がアドバイスしていた。」

ビデオを見ることは自分自身のプレーを客観的に振り返って改善するために必須、つまり良い面しかないと思っていたその頃の私にとって、『コーチングする相手によっては、ビデオを見せることは逆効果にもなりうる』という視点を初めて知った、1つのショックとも言える体験でした。

シドニーフットボールスタジアム
(シドニー・フットボール・スタジアム)

現在では、「ビデオを見せる選手の性格まで把握する」「ネガティブな(時にはポジティブな情報でも)プレーの映像を見せるかどうかは慎重に判断する」という知識は、コーチやアナリストの間では一般的になってきたように感じます。2006年には詳しく聞けなかったその具体的な部分を、近々の取材のテーマとして掘り下げてみたいと思っています。

(橘 肇/橘図書教材)